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<宇野氏の功績と罪>
宇野氏は,「トスカニーニ大嫌い」を標榜していた故福永陽一郎氏と同様に強烈な言動の批評家であるため,私のように氏の批評が大好きな者もおれば,大嫌いな方もいらっしゃいます。しかしながら,全体からみれば,氏のクラシック音楽会に対する功績は多大なるものがあると思っています。しかしながら,それに伴う影響は多大なものがあり,私の目で見て良いこともあれば,悪いことも有るわけです。と言うことで,宇野氏の批評による,日本のクラシック音楽大好きな人達に与えた功績と罪です。勿論,これは私がそう思うだけですので,他の方から観た場合は異なると思います。
功 績 | - | 罪 |
(1)朝比奈隆氏を強力に支持 | - | (1)クナツパーツブッシュを強力に支持 |
(2)ブルーノ・ワルターを支持 | - | (2)ムラビンスキーを強力に支持 |
(3)ウィルヘルム・メンゲルベルクを支持 | - | (3)日本人以外の東洋人を強力に支持 |
(4)ロブロ・フォン・マタチッチを支持 | - | (4)ヴァントを強力に支持 |
(5)批評を読む者に喜びを与えた | - | (5)小沢征爾氏を認めていない |
[功績]
(1)朝比奈隆氏の名前が一般的に知られるようになったのは,大阪po.との欧州演奏旅行の際,ブルックナーがオルガンを弾いていた聖フローリアン教会で「ブルックナー:交響曲第7番」の演奏会を行い,その時の録音がFM放送で流され,その演奏が素晴らしかったためだと思います。これ以降,朝比奈氏の指揮の録音は次第に発売されるようになり,東京で行われるコンサートも注目されるようになりましたが,宇野氏以外の批評家の批評は相変わらず芳しいものではありませんでした。その中で,宇野氏のみは強力に朝比奈氏を擁護し,また,その演奏の素晴らしさを雑誌や本に書きました。これは徐々に浸透し,亡くなる10年間位の朝比奈氏のコンサートは最後の曲が終わった後は,必ずスタンディング・オペレーションが起こるようになり,まるで宗教儀式のようになったのだそうです。そして,朝比奈氏は生涯,宇野氏に感謝の念を持っていたそうです。
(2)宇野氏は若い時に重い病となり,その際,ブルーノ・ワルターに手紙を出したら,ワルターよりの慰めの返事が来,それ以降,何回か手紙のやりとりをしたそうです。このためもあり,ワルターには親近感を持っているようです。また,今は消滅してしまった「日本ブルーノ・ワルター協会」が作られた時は,協力した1人だったようです。氏の著作の中ではワルターに関する1冊もあり,別の著作の中では,今でもワルターの録音が推薦されています。また,ワルターがテープに吹き込んで宇野氏に送った声による手紙は,雑誌「クラシックプレス」2002年秋号の付録CDに収録されました。
(3)ウィルヘルム・メンゲルベルクはオランダ人であったにもかかわらず,第二次世界大戦中にナチスへ協力したために,戦後は追放処分となり,音楽界に戻らない内に亡くなってしまいました。1960年代になり,氏の第二次世界大戦直前/中のコンサートの実況録音が廉価盤LPのフォンタナレコードより発売され(普通価格のLPで,それ以前にも発売されていたようですが,詳細に関しては不明です),そのジャケット解説の一部が宇野氏によるものでした。特にこの中の「ベートーベン:交響曲第9番」の熱の籠もった文章は,メンゲルベルクのいう昔の指揮者に興味を持たせるのに十分なものでした。メンゲルベルクは日本の批評家からは「古いスタイル」と言うことで,無視されていることがほとんどでしたが,宇野氏は「ベートーベン:交響曲第9番」及び「J.S.バッハ:マタイ受難曲」等の録音は強力に推薦していました。
(4)ロブロ・フォン・マタチッチはNHKが招いたスラブ歌劇団の指揮者として初来日し,「ムソルグスキー:ボリス・ゴドノフ」を指揮して大好評を博しました。その後,イタリア歌劇団の指揮者としても来日し,「プッチーニ:トウーランドット」を指揮しました。私はこの時の演奏をFM放送で聴きましたが,第3幕の「リューの死」の場面には衝撃を受けました(ティンパニィが素晴らしかったです)。しかしながら,後に名盤として名高くなった「メータ指揮ウィーンpo.」の同場面は,まるでリューの死を喜んでいるように聞こえました。私はこれで,メータに完全に見切りをつけてしまいました。宇野氏はブルックナーが好きなせいもあるでしょうが,マタチッチ指揮NHKso.によるブルックナーの交響曲のコンサートの素晴らしさを発表したほか,チェコpo.等との録音を強力に推薦していました。
(5)宇野氏の最大の功績は,批評の面白さ,人を熱中させる文章により,批評の面白さと共に,クラシック音楽を好きな人を増やしました。また,著作も多数あり,数多くの人に読まれていると思います。
[罪]
(1)宇野功芳氏の罪でもっとも重いのは,ハンス・クナツパーツブッシュを日本で広め,一部の排他的・熱狂的なファンを作ったことだと思っています。クナツパーツブッシュは結果的に,ミュンヘン歌劇場の総監督であったブルーノ・ワルターをユダヤ人という理由で追い出して,その椅子に座りました。その後,これまた結果的にですが,ウィーン国立歌劇場においても,ブルーノ・ワルターを追い出して,またもや,その後任になりました。ここらへんは,おそらく,ナチスにつくことによって,身の安全と出世を狙ったものと思いますので,当時の情勢を考えれば,仕方がないのかもしれませんが(第2次世界大戦前の日本においても,政府の言うことを聞かねば大変なことになったことは周知の事実ですし,今でも,いわゆる共産主義や独裁主義の国では同様ですね),平和な日本に住んでいる私としてはやはり嫌ですね。
(2)宇野氏がムラビンスキーに肩入れしていることもそうです。ムラビンスキーの演奏に対し,「精神性」という言葉を妙に強調していますしが,宇野氏が誉めている来日公演の実況録音CDを聴いて私が思ったことは,精神性なんていうことではなく,ううん,ムラビンスキーは軽い曲の指揮は素晴らしいということでした。すなわち,ムラビンスキーは「浅み」(注:私の造語で「深み」の反対語)のある曲に向いている指揮者だと思っています。特に,「ルスランとルドミュラ」序曲の疾風のようなテンポの演奏は素晴らしいですね。なお,ムラビンスキーのファンの方の一部もクナツパーツブッシュの場合と同様な方がいらっしゃいますが,まあ,考えてみると,自分の好きなものをけなされると心持ちが良くないのは確かですので,仕方がないことなのでしょうね。
(3)宇野氏は日本人以外の東洋人の演奏家を強力に支持しています。私は日本人演奏家は自国の演奏家ということから支持すべきで,それが十分過ぎる場合のみ,西洋以外の演奏家を支持すべきだと思っています(宇野氏が支持している日本人演奏家では,朝日奈氏以外には,ピアニストの内田光子氏が有名ですね)。そうでないと,今の日本の工場みたく,人件費の安い場所での生産のみとなり,日本人の生活水準を守れなくなると思います。日本人は,やはり,自分達のためにも,日本人演奏家が生活できるような環境をつくるべきだと思います。
(4)ブルックナーの交響曲の録音に対する最近の宇野氏の推薦盤はヴァントのみと言っても過言でないほど,氏はヴァントに入れ込んでいます。おかげさまで,今まで支持していたカール・シューリヒト等はほとんど圏外になってしまっています(2002.10現在は,シューリヒト指揮のものでは,交響曲第9番のみ推薦しているようです)。私は,ヴァントは改訂版を全く評価していないということ(これがあったから,細々でも,ドイツでブルックナーが演奏されていたという事実を無視しています),TVで放送された最後の来日公演の実況録画を観て,全く良いとは思わなかったことより,氏のヴァントに関する最近の熱狂は「ああ,またか」と言う気分でいます。
ただし,ベルリンpo.を指揮した「交響曲第8番」のCDはまあまあだったと思います。すなわち,新宿のタワーレコードのポップには「89歳にして完璧」と書かれていましたが,私に言わせれば「89歳にして(ようやっと)完璧(?)」と言ったところですね(笑)。結論から言えば,第1〜第3楽章はまあまあ、第4楽章はティンパニイの連打の部分と最後は素晴らしいと言ったところでしょうか。ともかく,第4楽章は確かに聴いていて興奮します。また,他の楽章もそういうことを望んでいる感じの演奏です。コンサートでこういう演奏をすれば,総立ちの拍手となるのではと思うような演奏です。しかしながら、私がブルックナーに望んでいるのは「崇高さ」であり,この演奏とは対極にあるものですので,どうしても点が辛くなってしまいます。
(5)1970年代だったと思いますが,日本po.が2つに分裂した時の最後の演奏会は”マーラー:交響曲第2番「復活」”で,指揮者は小沢征爾氏でした。この時の熱い演奏は,確かAMの文化放送で放送されました(あるいはFM放送だったかも)。この時以来,私は小沢氏のファンになりました。また,氏による著書「ボクの武者修行」なんていう本も読みましたし。氏は,日本のオーケストラとはうまく行かなかったようで,その後,ロサンゼルスpo.,ボストンso.の常任指揮者となり,2003年にはウィーン国立歌劇場の総監督になりました。カラヤンも同様ですが,やはり,聴く人にアピールしなければこのようなことは無かったと思います。これから考えると,やはり,宇野氏の批評は間違っていたのだと思います。
最近では,氏は2002年元旦のウィーンpo.のコンサートをかなりけなしていたような記憶がありますが,TV画面で観た限りでは素晴らしい演奏だったと思います。特に,ウィーンpo.の団員が各国語で「おめでとう」と言う場面は良かったですね。
<宇野氏のことで,最近驚いたこと>
宇野氏のことで最近(2002年)私が驚いたのことは,「レコード芸術」に掲載されていたクラシック音楽批評家の自己申告によるCD購入枚数で,氏の場合はそれが年間たった5枚であったことです(400枚以上の人も結構いました)。ううん,ということは他はレコード会社から批評家用に送られてきたものということですね。また,ティントナーという指揮者がブルックナーの交響曲全集になる録音を開始し,その最初の輸入CDが大評判となり,その後も続々と出てきたCDが評判になったにもかかわらず,国内盤仕様で発売されるまで聴いていなかったことにも驚きました(すなわち,批評用に送られてくるまで聴いたことがなかったようなのです。このことは雑誌「レコード芸術」の国内盤仕様のCDの批評中に,初めてこの指揮者の録音を聴いた旨が書かれていました)。あのブルックナー評論家として名高い宇野氏が,これだけ有名になった録音を聴かなかったとは(それも決して値段は高いものではなく,かつ,輸入レコード店に行けばすぐに入手できるものであったにもかかわらずです),私には全く信じられない思いでした。
<根本昌明>
宇野氏とは直接関係ないのですが,一時期,宇野氏が絶賛していたというアマチュア指揮者の根本氏について,少し書かせていただきます。
根本昌明氏は音楽大学出身の宇野氏とは異なり,いわゆる音楽の専門教育は受けた経験はありませんでしたが,幼い頃より音楽を趣味としていたそうです。そして,英語教師として市立海老名中学校に赴任した際,たまたま空いていた吹奏楽部の顧問となったことから独学で指揮法を学びました。そして,更に,同中学校,後に赴任した有馬中学校のOBや現役中学生とで「レーベンバッハ吹奏楽団」を作り指揮しました。この演奏に関して宇野氏らが絶賛したそうです。しかしながら,同吹奏楽団は人数不足のために1996年に解散してしまいました。同年,氏は自費にてプロのオーケストラである「新星日本交響楽団」を指揮したコンサートを開催し,その時の演奏は録音され,CD化されました。その後,氏は海老名市文化会館を拠点するアマチュア・オーケストラ「レーベンバッハ管弦楽団」を作り,その指揮者となりました。
氏の実演は聴いたことはありませんが,1996年の新星日本交響楽団との実況録音CDを聴いた限りでは,テンポはやや遅めですが,音楽は雄大という,極めてオーソドックスな感じで,指揮姿はともかくとして(指揮姿は,ものすごく強烈なものだそうです),演奏内容は極めて普通の指揮者ではないかと思っています。
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